コラム

遊びと子どもの世界「遊びを伝えていくには」

ライター:草場 純

 子どもたちが、遊ひの中で社会性を身につけ、心と体の成長が促されるのはよく知られたことです。ただし、現代日本社会の変質の中で、そうした遊びの働きに、機能不全がもたらされていることも、確かなようです。

 社会のなかでは、人は人と互いに折り合いをつけ、我慢するところは我慢し、主張するところは主張してやっていかねばなりません。これはそもそもなかなか難しいことですが、そうした個人が集まって逆に社会を形成して行くわけですから、とても大切なことであるのは言うまでもありません。しかし小さな頃に集団の中でもまれそこなうと、たたでさえ難しい回リとの関わりを、十分に学ベない場合も出てくるようです。すると遊びの集団に入れなかったり、遊ひの集団を作れなかったりして、遊びが成立しにくくなります。

 こうなると悪循環です。遊びで学ぶベきものが学ベず、遊びで鍛えられるベきものが鍛えられないと、遊びが成立しない。遊びが成立しないと、ますます遊びで学ぶベきものが学ベない。するとさらに…というフィードバックが起こり、しまいには子どもたちの間で伝承されてきた豊穣な遊びの伝統が失われるという事態に至ります。田沢湖の魚ではありませんが、一度失われた遊びが自然に復活するのは、ほとんどありえないことです。

 ではどうすればよいでしょう。伝統的な遊びは、高度成長以降に育った現在の父母や、どうかすると祖父母の世代からもかなり失われてしまっています。また、頑張って伝えようにも、遊びの集団が成立していない中では受け取られていかないでしょう。うまく一時遊ベたとしても、伝承していくとなるとかなり困難だと言わざるを得ません。

 そこで役に立つのが、子ども向けのボードゲームです。伝承遊びの経験がなくても、大人はルールを読めば遊び方を理解できるでしょう。この遊び方を教えながら、子どもたちと楽しく遊んでほしいのです。ゲームの楽しさは子どもたちを引きつけるでしょう。ゲームの楽しさを体験できたとしたら、子ども達はそれがルールを守ることによって支えられているということを、言葉だけではなく体で理解できるでしょう。すると前述と逆の循環が起こり、遊びが回復するのではないでしょうか。

 実際にはこんな簡単な話ではないかも知れませんが、無形の伝承と違って、はっきり物のあるボードゲームは、親子の間や、子どもたち同士の間に、求心力のあるツールとして働くと思います。更に、ルールを理解し守ることが楽しさへつながる体験を積んだ子どもたちが、外遊びや、遊び集団の形成へと、遊びを広げてくれることを願っています。

初出:ゆうもりすと2010年3号


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