今回は、昔からある子どものボードゲームについて触れましょう。
今はほとんど遊ばれていないようですが、私の子どもの頃は「十六武蔵」でよく遊びました。四角と三角をくっつけたような独特の盤面は、見たことのある方もおられるでしょう。これは「狐と
またチベットやモンゴルなど、中央アジアの多くの地方に似たタイプのものが多いのも、興味深い特徴です。「狼と羊」だとか、「虎と牛」だとか、土地土地の特徴を伝える駒になっているのも面白いです。民俗とのつながりを感じますね。ですから、伝播の経路が辿れたら素晴らしいのですが、難しいようです。
さて、これらと十六武蔵の大きな違いは、駒の取り方です。「狐と鵞鳥」系統のゲームは、だいたいが親駒は子駒を跳び越して取るのですが、十六武蔵の場合は親駒は子駒の間に入って両側の二つを取る、という伝統ゲームではあまり類のない珍しいキャプチャーの仕方になっているのです。
ところで、十六武蔵では親駒を「武蔵」、子駒を「捕り手」と呼びます。この武蔵を「宮本武蔵」と誤解する向きもあるようで、私も「剣豪ゲーム」という名でで売られていたものを所持しています。ですがこの武蔵は宮本武蔵ではなく、「武蔵坊弁慶」の武蔵なのです。つまり捕り手で取り囲んで、弁慶を立往生させようというわけです。もちろん弁慶は架空の人物ですが、民衆にとって、そして子供達にとっては実在なのでしょう。民俗は説話や伝説の中にこそ生きているわけで、ゲームにもそれがしっかり取り入れられているのですね。
十六武蔵の前身は八道行成(やすかり)というゲームで、これは四角い部分だけでできたボードです。これに「雪隠」とか「牛小屋」と呼ばれる三角の部分をつけて、あの特徴的なボードができました。こんなところにも、昔の人の生活や考え方が、ほの見えますね。