コラム

遊びに潜む民俗⑦

ライター:草場 純

 ♪ウチのウラの黒猫が、オシロイつけて紅つけて、人に見られてちょいと隠す。

 これは、「プレ鬼ごっこ」ともいうべき「鬼交代」の遊びです。鬼交代というのは、逃げるコドモをオニが追いかけて捕まえる「オニゴッコ」ではなく、穏やかにオニが交代していく幼児用の鬼遊びです。オニは、猫の動作を真似ながら歩き、歌い終わったところに立っていた子の両肩に軽く触れて、オニを交代するのです。

 しかしこの「黒猫」という童遊びは、どことなく色っぽさを感じさせますね。艶めかしいとまでは言いませんが、単なる鬼ごっこにはない雰囲気を持ちます。これは古い民俗である「歌垣」にも通ずる、遊びの地下水脈なのかも知れません。

 また「鬼ごっこ」や「鬼交代」には感染呪術を思わせるところがあります。「オニ」とは「悪霊」であり、「タマ」であり、「穢」であり、「ケガレ」であり、「えんがちょ」であるわけです。接触によって、それを移していくのがオニゴッコの心理的な背景です。

 もう一つ同様の遊びを挙げましょう。

 ♪おじいさん、おばあさん、何食ってかがんだ。海老食ってかがんだ。

 これは、問答歌で、オニは杖をつく真似をして、老人を演じます。前半でコドモ達がオニを囃し、後半でオニが言い返します。そうしてやはり丁度止まったところのコドモと、オニを交代するのです。

 これは一種の謎かけで、コドモたちは年寄りをからかい「年を食ったから(腰が)かがんだ」と言わせるために、わざと「何食ってかがんだ?」と嫌味に尋ねるのです。それに対して老人も見栄を張って、「(値段の高い)海老を食べたからかがんだのだ」と言い返すのです。海老の文字は年寄りを象徴し、確かに腰が曲がっています。

 だが、オニは最後にコドモに接触し、オニ(老齢)を染していくわけです。ここに通過儀礼にも憑依現象にも通ずる、遊びの深層を垣間見るのは、深読みのしすぎでしょうか。

初出:ゆうもりすと2012年3号


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